三十路令嬢は年下係長に惑う
波乱含みの歓迎会
水都子と鈴佳のコンビは初日からして順調な滑り出しを見せていた。

 次の日も滞りなく業務を進め、無事、全員揃っての歓迎会が開催できそうになった、……矢先。

「これ、今日中に何とかしてもわないと困るんですけど」

 終業時間ギリギリ、チャットも、インシデント発生窓口も通さず、直接鈴佳の席にやってきたのは坪井未優子だった。なんでも、名刺印刷用のプリンタから出力がされ無いのだという。
 月曜、出先に直行する予定の総務課長が必要としている、幸いにして課長は現在会議中、会議が終わるまでに印刷できるようにして欲しいという事だった。

「なんだってそんなギリギリなんだ」

 横から間藤が口を挟むと、

「名刺発注書が埋もれちゃってたの」

 しれっと坪井が言ってのけた。どことなく薄ら寒く聞こえるのは、作り声がわざとらしすぎるだろうか、と、水都子は思った。

「……こういう事があるから、社内の依頼系はワークフローに落とし込んで欲しいと以前から言ってるんですけどね……」

 迷惑そうに言う間藤に、坪井は見ている方が気色悪くなるほどのしなを作って言った。

「えー……だってぇー」

 恐らく、本人はかわいらしく言っているつもりなのだろう、坪井が時折男性社員に対して媚びたように言う様子を水都子も何度も見ていた。

 しかし、そういう坪井に対してしょうがないな、という態度の男性社員達と間藤の表情が全く違う事に坪井は気づいていないようだった。

 鈴佳も、やばいですね、という顔をして水都子に視線を送る。

「あー、じゃあ、私、ちょっと見てきますんで、皆先行ってて下さい」

 何とか対応しようとする鈴佳に水都子も同意して、手伝おうと席を立ちかけた。

「いや、いい、俺が対応する」

「えー、間藤さんが対応してくれるんですかぁ?」

 何故か坪井未優子はうれしそうに言う。

「え、でもせんぱ、間藤さん?」

「遊佐さんは今日の歓迎会ではメインだし、神保も一緒の方がいいだろ、俺が対応するよ、キッチリな」

 うれしそうな坪井に対して間藤の方は瞳が笑っていない。
< 27 / 62 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop