三十路令嬢は年下係長に惑う
歓迎会のその後に
「あーあ、やっぱり……」

 酔いつぶれてテーブルにつっぷす鈴佳を見て間藤がため息をついた。

 間藤がしきりに心配していた鈴佳の酔っぱらいぶりは、元々ほがらかな鈴佳が饒舌になるだけで、それほど恐れるモノではないのでは、と、思った矢先の事だった。

「え? でもさっきまで普通にしゃべってませんでした?」

 墜落するように眠りに落ちた鈴佳には前兆らしいものがまったく見えなかった。本当に、ついさっきまで水都子と話をしていたというのに。

「あー、こうなると起きないんだよねえ……」

 事情を知っている様子の白井もぼやく。

「噂には聞いてたけど、本当に唐突に寝ちゃうんですね」

 目黒は、鈴佳がこうなるまで飲むのを見たのは初めてだったらしい。同じく中野も、

「まあ、絡んだり泣いたりするよりはいいんじゃないですかね……」

 と、微笑ましく見守っていた。

「家飲みならいいんだ、家飲みならな」

 間藤が続ける。

 間藤の言葉に、水都子は、二人が互いの家を行き来するような仲なのだろうか、と、思ってわずかではあるが胸が傷んだ。

「タクシーに乗せてうちに連れて行っちゃいますから」

 にこやかに水都子が言うと、

「水都子さん、神だ……」

 あがめるように年少の目黒が言い、

「本当に、いいんですか?」

 念を押すように中野も続いた。

 間藤が会計を済ませて、解散する事になると、いつの間にか鈴佳を当たり前のように背負う間藤が居た。

 他の社員達は、その様子に、特に驚く風でもなく、それが当たり前のように振舞っている。

 全員揃って店を出たところで、驚くべきことに坪井が待ち構えていた。
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