いつかは売れっ子グラフィック・デザイナー
それは友からの呼び出しで始まった

私がデザインを?

「彩香、どう、元気にしてる?」
携帯の呼び出し音で彩香は目を覚ました。昼下がり、掃除をして洗濯物を取り入れたら、うっかり横になっていたらしい。携帯のボタンを押すと低くよく通る声が聞こえた。大学のサークル仲間で、卒業以降も時々会っていた友人、祐子だった。
「ああ、祐子。お久しぶり」
「ぷっ、何よ彩香。昼寝してたの〜」携帯のスクリーンの向こうで祐子が遠慮なく笑っている。
「違うよ」彩香は慌てて咳払いをして答えた。
「あ、そう。元気そうだね。旦那はもちろん仕事だね」
「うん」
「実はね、彩香。近くまで用事で来ているの。今、もしかして出られる?」
彩香は携帯で時刻を見た。午後3時過ぎだ。
「そうねえ、少しくらい大丈夫だよ。買い物も昨日済ませたし、5時ごろまでなら」
「よかった。彩香ん所の一番近い駅って東朝倉公園だっけ。確かそう聞いた覚えがあるけど。近くにお茶するところあるよね」
「ええ…、ちょっと待って」
彩香は駅前の商店街の並びを思い出そうとする。
「駅の北側にカフェ・デラ・クルスだとかいうところがあるよ。行ったことはないけど」
「わかった。20分ぐらいでそこに行ってるから」
「いいけど…。ねえ、何。私に用事?」
祐子の常で、勝手に話を進めるので彩香は慌てて尋ねた。携帯の向こうで祐子がふふっと小さく笑った。
「うん、ちょっとしたいい話だよ。楽しみにしててね、じゃあ」
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