君の笑顔に涙する

好きと嫌い

「嘘も方便」


　可愛らしい声で、静かにそう言った、僕の恋人である浅野凛（あさの　りん）。通学路を歩きながら学校へと向かう中、強気な笑みを浮かべて、そう言う彼女は僕を真っすぐ見る。

　「……どうしたのさ、急に」
　「昨日ね、国語の授業で習ったの。嘘をつくことは、悪いことだけど、時と場合によっては嘘をついても良いって意味なの」

　凛は、「私、この言葉好き」と付け加える。

　「知ってましたか、結城有（ゆうき　ゆう）くん」

　そうニコッと、笑う凛。その笑顔に、僕の胸の音は加速して。少しだけ、顔が熱くなるのを感じる。

　「知ってるよ、そのくらい」

　そう、なんでもないふりをして答えた。

　「そっかあ。さすが、学年一位」
　「やめてよ、それ」
　「えー？　だって、すごいじゃん。一年生から今の二年生まで、ずーっと、テストで、毎回一位なんて！　かっこいい！」

　『かっこいい』、そう彼女は簡単に言う。僕が、嬉しくてたまらなくなるなんてのも知らないで。

　「まあ、凛はもう少し勉強しないとね。下から五番ってのは、なんとかしないと」
　「うるさいなー。いいもーん、有に勉強教えてもらえるし」
　凛は足を止め、僕の顔を覗き込む。

　「有といっぱい、一緒にいられるもんね！」

　そう、少し照れくさそうに、笑う彼女。僕は嬉しくて嬉しくて、どうかなりそうだった。片手で口元を隠し、そっぽを向く。そんな僕を見て、凛はクスクスと笑う。そっと、僕の手を握り、「手、繋ごうよ」と強気な笑顔を見せる。僕は「うん」と、なんとも情けない声で返し、そっと、宝物に触れるよう、優しく握り返した。

　「ぷっ、有の手、すっごい冷たい。緊張、してるんでしょ？」

　ニッと、意地悪な笑みを浮かべる凛。
　そんな凛に、僕はそっぽを向いて「うるさいな」と返す。
　
「ふふ、女の私の方が温かいなんて、変なの」

　男らしくないと、そう思われてしまっただろうか。
　そんな不安が過る。
　僕より、凛の方がずっとたくましい。優柔不断でもなければ、堂々とした姿。そんな凛が、僕のことを嫌いになってしまうんじゃないかと、いつも不安になる。

　「まっ、そこが有の魅力だよね！」

　そんな言葉に、僕はまた嬉しくなってしまって。
　僕は、また情けない声で「ありがと」と返した。