君の笑顔に涙する
声と音

 僕は、あれからほぼ毎日病院に通っていた。

 凛との会話は、昨日読んだ本の事、特別授業でのこと、聡のこと、いろんな事を話した。凛はどの話題でも、楽しそうに笑って聞いてくれていた。

 「凛、おはよ」
 「有! また来てくれた!」

 そうニッと笑う凛に、僕も笑顔を返した。
 いつも通り僕は、ベッドの近くにある椅子に腰を下ろす。すると、凛は「んふふふ」と変な笑い声をあげながら、ニヤニヤと笑っている。

 「あのねあのね、来週ね、外出許可が出たの!」
 「外出許可? 本当に?」
 「うん! それでね、有と出かけたいな!」

 「だめ?」と、首を傾げる凛の姿は愛らしく。

 僕は視線を逸らしながら「うん、いいよ」と答えた。
 そんな僕を、凛はクスクスと笑う。

 その凛の笑い声に、僕はふと思った。

 ……あ、この感じ、なんか懐かしいな。

 クスクス笑う凛が、いつもの凛の感じで、僕の口元は自然と緩む。

 「なーに、ニヤニヤしてるのー」
 「別に。凛、どこに行きたい?」
 「うーん……」

 ってか凛が覚えてる所って嫌いな所だよな……。

 悩む凛の姿に、僕は少しだけ申し訳なくなり、僕が案を一つだした。

 「……えっと、映画は? 凛、ホラー映画好きでしょ?」

 一番最近のデートで、凛とホラー映画を観に行き、凛は『面白かった』『好き』と言っていたのを覚えていた。

 「ホラーか……。有と観たやつ、微妙だったよね……」

 頭が、ぐらりと揺れた。
 ハンマーで頭を殴られた気分だ。

 『……凛は、映画、楽しめた? あれ、好き?』
 『うん、もちろん! 楽しかった! 私、好きだよ!』

 凛と、カフェでの会話を思い出す。

 あれも……嘘だったんだ。

 どんなに今凛が僕を必要としていても、こうして現実を突きつけられると、やはりキツいものがあった。
 
 「有……? どうしたの……? 顔色、悪いよ?」
 「いや……ごめん、大丈夫だよ。じゃあ、映画じゃなくて……プラネタリウム。プラネタリウムは?」
 「プラ、ネタリウム……?」

 首を傾げる凛に、凛が忘れていることがわかる。
 その姿に僕は安堵し、肩を落とす。

 「じゃあ、行ってみようか、プラネタリウム」
 「うん!」

 そう笑う凛に、僕も笑顔を返した。

< 33 / 37 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop