來夢がその少女の手に触れたのはまさに奇跡だと言ってもいいかも知れない。

 もしかすると死んだ雪也がそうさせたのかも知れない。

 真実を知ってくれと。

 その日來夢は帰宅途中の電車の中で腹痛に襲われた。

 毎日通過するだけで1度も降り立ったことのない駅で降りる。

 思った通りというか予定より早くきた生理にやれやれと思いながら、それでも念のために準備していた生理用品をバックの中から取り出す。

 トイレの個室を出ると目の前に少女が立っていた。

 立っていたというか1つしかないトイレの順番を待っていた。

 その少女は來夢を見るなり言った。

「あの生理用品持ってません?」

 少女の視線は來夢の手の小さなポーチに注がれている。

 手袋をはめなくてはとか、そんなことを考える暇はなかった。

「すみません、1個ください。どうも急になっちゃったみたいで」 

 少女に促されるままに來夢はポーチの中から1つ生理用品を取り出し少女に手渡した。

 素手のまま。

 少女の指先に來夢の指先が触れた瞬間見えたのだ。

 少女は短く礼を言うと体を捻るようにして來夢の横を通りすぎる。

 來夢は振り向いてその姿を追う。

 目の前で扉が閉まる。

 見えた、確かに少女に触れたとき。

 雪也の顔が。



 トイレから出てきた少女を説得するのにそう時間はかからなかった。

 奢るからというとすんなりついて来た。

 來夢が女だから警戒していないのかも知れないが、相手が男でも同じかも知れない。

 少女はそんな少女に見えた。

 少女は自分は18歳だと言った。

 でも本当はもっと若いだろう。

 メイクよりすっぴんの方が美しいだろうと容易に想像できるその顔は幼いのにどこか大人びていて、そしてとても冷めて見えた。

「で、あたしに聞きたいことってなに?」

 少女は細長くたたんだ紙ナフキンを指先に巻きつけたり外したりしている。