キミに降る雪を、僕はすべて溶かす
4-1
「吉井さん。バレンタインって、営業さん全員にあげるんですか?」

こないだまでお正月気分も抜け切れてなかったのに、ますます真冬の厳しさが身に染みるこの頃は、お約束の義理チョコイベントがそろそろ気になりだす。

店長と居残り当番の営業さんが外食に出かけてる間、彼女と二人きりのお昼休憩は気楽なお喋りが出来るひとときだ。

「一応ね。皆さんでどうぞ的に、代表して店長に大き目のを一つ渡してるの。個人で渡すと、お返しとか面倒だと思うし」

「前の会社は、女子でお金出し合って課の全員に渡してました。ホワイトデーに返ってくる率、低かったですけど」

「ここも期待しない方がいいわ。たぶん返してくれるの、羽鳥さんくらいだから」

クスリと笑い、吉井さんはうずらの玉子を可愛らしく口の中に収めた。

「羽鳥さんには、個人的にあげます?」

何とはなしに訊いちゃってから、不躾だったかと慌てて。

「あっ。すみません、余計なこと言って!」

「あげないと拗ねるから、一応」

彼女は困ったように口の端を緩め、それから思い付いたように付け足す。

「今年は二人で出し合って、店長に渡すっていうので、どう?」

「そうですね!」

特にブランドチョコじゃなくてもいいらしいから、買いに行くのはあたしが請け合った。それもやっぱり新人の務めだし。 
< 54 / 195 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop