やさしくしないで ~なぜか、私。有能な上司に狙われてます~

私は、作田君に電話をかけた。
先輩を置いて帰るわけに行かない。
だからといって、連れて帰るにも行かない。私だけじゃ彼を背負い切れないもの。
作田君を呼び続けるけど、彼は、まったく出ない。
だから、早く電話に出て。
迎えに来てよ。

岡先輩のことを横目で見ながら、相手が電話に出るのを待つ。
何度もコールするのに、留守番電話に切り替わってしまう。

電話を切って、また、かけようとしたとき、後ろから声をかけられた。
「お客様、タクシー呼びましょうか?」
さっきの店員さんが、私たちに声をかけて来てくれたのだ。
店員さんの、迷惑そうな顔つきを見てため息をつく。
彼は、親切から声をかけて来たのではない。
ここにいたら邪魔だから、そこを退いて欲しいと言いたくて、声をかけたのだろう。

「ありがとうございます」
ここは、お礼を言うしかない。
「店の近くまで、来てもらいますね」店員さんは、愛想よく笑顔で答える。
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