君は群青
よくある話

失恋なんか大したことはない。
恋を失った友人たちに、毎度の如く投げつけてきた言葉だった。わたしがそんな風に励ます度、彼女たちは「そうだ」とも「そうじゃない」とも言わず、ただただこぞって微笑んでいた。彼女たちは強い。強いから笑えたのだ。

今のわたしはどうだ。このやり場のない気持ちを、ヒリヒリとする何かを、守られも破られもしないまま死んだ約束を、大したことはない、なんて言われたら。少しも笑えないばかりか、その呑気な紅い頬をきっと睨みつける。

彼との別れのきっかけは、本当に些細なことだった。二年半付き合っていた彼とは自然に同棲する運びになり、物件も決めていたところだった。
衝突の原因を産んだのは、ソファの色のこと。革張りの黒がいい彼と、布地の黒がいいわたしは、家具店でしばらく小声で揉めたあと、帰り道でも揉め続けた。この言い争いは次第に価値観の違いという論点にまで達し、距離を置こうと同棲の話も白紙へ。
そしてちょうど二ヵ月が経った今日、やはり一緒にはやっていけないと彼からの電話があった。

布団に潜って、二ヵ月前までの彼とのLINEのやりとりを何度も見返した。正直、ソファの色で言い争って冷める恋なら冷めた方が良いし、同棲の時点でこれ程揉めるのであれば結婚生活などさらに困難を極めるのだと思う。見ないように、考えないようにしていただけで、彼には浪費癖もあったし、どこかわたしのことを見下している節もあった。それでも、彼に捧げてきた二十三、二十四歳の二年間を、どうにも諦めきれなかった。こんなに我慢してきたのに、こんなに許してきたのに。そんなやり場の無い思いが、涙になって頬を伝いボロボロと枕に落ちていく。
今日が休日で本当に良かった。
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