打って、守って、恋して。
彼の熱意は目の中に

つい先日、発表になったとある記事を眺めて、深いため息をつく。
窓からはそよそよと夏の香りがする生あたたかい風が吹き込んでくるが、湿気が少ないので心地いい。
その風のおかげで私の髪が肩下あたりで揺れているのを感じつつ、左手で頬杖をついた。

「侍ジャパン新たに社会人代表選出 アジア競技大会に向けて」の文字をたどり、下へスクロールすると「背番号14 藤澤旭」の名前。

また選ばれたのだ、日本代表に。

これって本当に本当にすごいことだ。
彼本人には全然そういったオーラも、自慢するようなオーラも何も感じなかったのだが、正真正銘すごい人。

もちろん、投手部門には栗原さんの名前もある。

あの二人とお酒を飲みかわしたなんて、いまだに信じられなかった。


「ただいま戻りました〜。淡口さん、頼まれてた書類も出してきました」

「おー、ありがとね沙夜ちゃん」

ちょうど外出から戻ってきた沙夜さんが、淡口さんに声をかける。おかえりなさーい、と私も手を振った。
ふと彼女は目ざとく私の見ているパソコンに気づいて、にっこりと意味ありげに笑う。

「ついでに私用で山館銀行に寄ってきたんだけど、窓口に藤澤くんいたよー」

「えっ!話したんですか!?」

つい過剰に反応してぐいっと勢いよく振り返ると、沙夜さんよりも隣の席の翔くんの方が驚いてビクッと体を震わせた。

< 42 / 243 >

この作品をシェア

pagetop