大江戸シンデレラ

◇逢引の場◇


「その日は御役目が立て込むゆえ、何刻(いつ)になるかわからぬが……必ずや明石稲荷(ここ)に参る」


陰暦皐月(さつき)の末の、江戸に夏を告げる大川(隅田川)の川開きの初日には、夜空に花火が打ち上げられ、川岸に料理茶屋から出された納涼船がずらりと浮かぶ。

御公儀から、広小路にも大川端にも屋台を出店することを(ゆる)されるため、老いも若きも、お武家も町家も百姓も、身を変装(やつ)してそぞろ歩く。
身分を忘れた無礼講の夜だ。

処々で喧嘩だの小競り合いだのがあるから、町奉行所の役人たちは、南北問わず各処に駆り出されるのだ。


兵馬(ひょうま)が怖いくらいの真剣な目で、舞ひ(まい)つるに問う。

「さすれば、そなたも見世を終えたら……
……此処(ここ)で待っていてはくれまいか」

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