大江戸シンデレラ

◇刀自の場◇


おさとによって支度された美鶴の新しい部屋は、母屋の中でも()の方角に近い(ところ)にあった。

昼下がりの今はそろそろ西日が陰ってきつつあるが、朝ならば朝日がさんさんと差し込むに違いない。


されども……

『部屋はほかにもありまする。
さような客間をこの者に使わせるなど、とんでもない』

と、多喜は最後まで難色を示した。

しかしなから、上條 広次郎(ひろじろう)が改めて、

『そなたがしたことを、委細漏らさず叔父上に申し上げてもよいのか』

と問うと、ようやく多喜は黙り、そそくさと母屋へ戻って行った。

それから、広次郎はおさとに、

『これからは叔母上がなんと云おうと、しかと身の回りの世話をするように』

と命じた。

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