暮れ()つ、夕闇迫る(とき)がやってきた。

(くるわ)の玄関先にずらりと並んだ芸者(しゅ)が、一斉に手にしたお三味(しゃみ)を掻き鳴らす。

下足番が、紐の付いた下足札を漁師が網を投げるが(ごと)く、ばらりと(くう)へ放つ。

それを合図に、客寄せの男(しゅ)が勢いよく表におん出て、往来に向かって大声を張り上げる。

通りに面した張見世(はりみせ)では、廻り部屋の女郎たちが長煙管(きせる)を片手に座し、大籬(おおまがき)で仕切られた向こうから、今宵ひとときの「 娼方(あいかた)」を求めて吟味する(おのこ)たちへ向けて、艶を帯びた流し目を送っている。


吉原は久喜萬字屋(くきまんじや)の「夜」が始まった。