オオカミ社長は弁当売りの赤ずきんが可愛すぎて食べられない


 しかしこの日の俺は、ことごとくツイていない。
 なんとベンチは先客で、全て埋まっていた。
 しかたなく、またとぼとぼと歩き出す。中央公園を出てしばらく歩いたところで、自然と足が止まった。
 おもむろに、豚汁を啜る。
 ……うん?
 首を傾げ、もう一度豚汁を啜る。
 ……ふむ。
 自然と、溜息が零れた。
 昨日と同じ豚汁はしかし、昨日とは比べ物にならないくらい味気なかった。
 ……美味いのは、豚汁ではない。美味いのは、彼女に差し出された、あの豚汁。彼女の手でよそわれてこそ、豚汁は美味いのだ。
「あの」
 俺とて、本気で太陽が一晩で皺枯れただなんて思っていない。
「あの、すみません」
 ただ、当たり前のようにあそこに行けば会えるのだと、そう過信してしまったのだ。
 ……うん?
 気付けば後ろから、袖が引かれていた。街で声を掛けられる事はそう珍しい事ではないが、直接腕や肩を取られるというのはそうある事ではない。
 煩わしさに、自ずと眉間に皺が寄った。
「……っ、君は!!」
 しかし振り返った瞬間、眉間の皺は真っ平に伸びた。
「あ、やっぱり昨日のお客さま。突然、呼び掛けてしまってすみません。だけどそのお弁当、さっそく買いに来ていただいたのかなって思ったら、居ても立っても居られなくなっちゃって」
「いや! 俺は嬉しい、君が声を掛けてくれて物凄く嬉しいぞ!」
 所在なさげな少女に向かい、俺は勢い勇んで答えた。
「ふふっ。やっぱりお客さん、不思議な方です。整いすぎた美貌と雰囲気で、一見では近寄りがたいくらい。だけど実際にお話しすると、とっても気さくで」
「そうか! なに、よく言われるんだ」
 ……いいや、本当は一度として言われた事のない台詞だ!
 しかし対峙する少女の目に、俺が「気さく」と映っているのなら、俺に否やはなかった。
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