剣に願いを、掌に口づけを―最高位の上官による揺るぎない恋着―
手元に乞う
 愛馬に跨り、セシリアは城へと急ぐ。天気を気にしてというのもあるが、どことなく自分の乱れる気持ちを落ち着かせたかった。

 慣れた山道をシェキッヒは駆け上がり、雨が降る前にセシリアは城へ戻れた。厩役に馬を預け城内に入り、私服なので上官の部屋を訪れる前に先に団服に着替えるべく自室へ向かおうとしたときだった。

「セシリア」

 背後から声をかけられ振り返れば、ルディガーが早足でこちらに寄ってきた。

「おかえり。天気が崩れそうで心配していたんだ」

 社交辞令かもしれない。いつも彼はこれくらいのことは言う。しかしルディガーの些細な気遣いが、今はセシリアの胸を痛めた。

「只今、戻りました。すぐに着替えて、報告に上がります」

「そのままでかまわない。先に報告を」

「……はい」

 一瞬、迷ったセシリアだがおとなしく指示に従った。アードラーに宛がわれた部屋に向かう途中、ルディガーから先に今日の報告を受ける。

 といっても彼の今日の職務は下から上がってきた書類に目を通したり、予定されている国境沿いの町への視察計画をまとめたりなどの事務処理が多く、とくに変わった出来事はなかったようだ。

 今は団員たちと視察に関しての打ち合わせをした後で、剣の稽古に付き合った帰りらしい。部屋に着き、セシリアはいつも通りルディガーが座るのを静かに待った。

 彼女は机を挟んで彼の正面に立つ。

「今朝話していた遺体の妙な点に関しては説明がつきました。ジェイドからの話ですが、ベテーレンという花の効果らしいです」

「ベテーレン?」

「ええ。また、半年ほど前に獣に襲われたとされていたクレア・ヴァッサーについてですが――」
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