「し、死ぬ」
 私は屍一歩手前の上半身をテーブルに倒した。
 九月。秘書への移動を命じられてひと月が経とうとしている。そして、まだ私は総支配人専属秘書だった。
 総支配人のスケジュールは、多忙を極める超絶多忙だった。朝は前日までの売上やらクレームの連絡を確認して、各部署からのメール確認、副総支配人からの報告を受けて幹部会議、それが終わると今度は本社とのテレビ会議、そして関連会社との会合、会食。しかも、日本事業部の総責任者としての任にもついているから、東京だけでなく大阪やら沖縄やらの地方へも回っていく。私は東京にいる時だけの管理を任されているから、地方ではどうなっているのかわからないけれど、休憩を取る間を刷り込ませるほうが苦労するくらい分単位で予定が刻まれている。
 それをどう組んでいくかが私の仕事だ。移動時間やら場所やらを考慮してうまく組まなければ、ダブルブッキングなんてあっさり起こりそうだから神経を使う。お客様と対面する時とは違う緊張感が常に付きまとう。だけど、まだ秘書失格を言い渡されてはいない。
 ひと月経った今も彼の傍で働いている要因として、人間には返報性の法則があって、もらったものは返さないと気が済まなくなる性質がある。給料を上回る金額のスーツを与えられて、何もできませんではいたたまれない。
 そもそも仕事を適当にするなんて私の性格上無理な話だった。与えられた仕事は完璧に仕上げたいし、気になったところは改善しないと気が済まない。元から仕事中心の生活を送っていたのだ。コンシェルジュに戻りたいけれど、私情でミスを起こして周囲の手を煩わせるなんて絶対できない。