「トリック・オア・トリート!」
 解き放たれた扉の前に私は両手を上げてバッと立ち塞がった。大きな声を上げた後、全く反応がなくて私は被っていたお面を外した。目の前の人物は、いつも以上に眉間の皺を濃くして、完全に奇異なものを見る目を向けてくる。
「何ですか。それ」
「ハロウィーンなので、ちょっと趣向を凝らしてみました」
 紙製のジャックオランタンのお面を翳すと、「それはご苦労様」と実に淡泊な言葉とともに私を追い越して総支配人室に入るルイ・ウォーカー氏。私は塩反応に不満で頬を膨らませた。
「もっとテンション上げてくださいよー」
「私のテンションは常にこれです」
「知ってましたけど」
「なら、結構。で、いきなりどうしたんですか?」
 トントンとリズムよく会話を交わしていく。およそ二カ月、この人の秘書をしていると、多少ストレートな言葉の応酬はただの癖のようなものだということがわかってくる。中身が全く厭味ではない……とは言い切れないところもあるけれど、悪人ではない。ちゃんと、帝都プリンスホテルのことを考えて、ここにいてくれている。信頼できる人だと思う。
「総支配人の国だとハロウィンは重要行事かなと思ったんです」
「本来の意味として、死者の魂を弔う日ではありますが、日本ほど仮装の意味合いは強くありません。あとお菓子を強請れるのは子供だけですよ」
「わかってますよー」
死者の魂が返ってくるとされる。日本で言うお盆に近い。
彼の生まれがどこかはわからないけれど、幼い頃から身近にあった行事ではあるはずだ。異国で仕事をする中で少しだけ気分転換になるかと思ってやってみたのが、スベッてしまった。