もっと別のことでお返ししようと考えていた時、
「他でコントロールしてるから」
「え?」
 反省している私の耳が辛うじて彼の呟きを拾った。聞き返すと、彼は寝転がったまま私とは逆方向へ視線を巡らす。
「息抜きくらい……私もなくてはかえってストレスで暴飲暴食することになるので、あのままでいいです。ラーメンだって、たまに食べる分には問題ないですし、何よりおいしかったので……大丈夫です」
 ぼぞぼぞと呟く顔が微かに赤く染まっている。普段、鉄仮面なだけに照れた表情が愛らしく、年齢よりもかなり幼い。
「ふふ、じゃあまた今度食べに行きましょうね」
 だから、私はつい年下の小さな男の子に言うみたいな口調で軽く言ってしまった。我に返った時には遅く、総支配人のばっちりと大きく見開かれた目がこちらを凝視している。
 し、しまった、上司になんてことを!
 慌てて謝ろうとしたら、彼の手が伸びてきた。それは私の顎から頬へとなぞる様に上がっていく。頬を捕らえた大きな手のひらに私も自ずと息を詰めた。
 その時だ。トントンとノックが鳴った。さっと引いていく総支配人の手。彼は寝転んでいた姿勢から即座にソファーに座りなおす。
「はい、どうぞ」
「総支配人、おはようございます」
 副総支配人の福田さんが顔を覗かせた。そして、始まる朝の報告。私はというと、総支配人の傍らでルイボスティーをカップに注いでそそくさと部屋を出た。
びっくりした。
 一瞬、触れた手のひらの熱さに。今でも思い出すエメラルドの瞳が輝いていて、吸い込まれるようだった。
 た、たまたま、手を挙げたら当たっただけだよね。
 あの総支配人にそれ以外の意図があるわけがない。
 私はそう思うことにして胸の動悸を押さえると、コンビニに向かった。
やっぱり、朝ごはんを抜くのと力が出ないから。
今日も朝から会議と面会でスケジュールはびっしりだ。昼までお茶だけではつらいだろう。
ヘルシー志向の彼に朝は軽めのレタスとハムのサンドイッチにしようか。その分、糖分が欲しくなる時間の休憩タイムには、彼の好きなカステラかシュークリームにしよう。