十一月半ば。木枯らし一号が吹いたと発表があった次の日、私は目の前で湯気を放つカップを前にぼうっと意識を彼方に飛ばしていた。
「どうされました?」
「え?」
 耳に心地よい美声に意識を引き戻されて、視線を上げる。その声にふさわしい容姿を象った麗人が座っている。私の上司、ルイ・ウォーカー氏。三十歳を超えているとは思えない肌理細やかな白い肌と高い鼻梁、そして魅惑的なエメラルドグリーンの瞳。全てにおいてパーフェクトな人の秘書も三カ月していると、多少慣れてきて目が合うたびに反射的に心臓がドギマギすることもなくなった。
 彼は長い脚を組んで、優雅に私が淹れたアッサムを一口飲む。
「さっきから難しい顔で固まっているので」
「す、すみません」
「勤務時間は過ぎているので、別にかまいません。何か悩み事でも?」
「え、いや、悩み事というほどでもないんです」
「他愛のないことなら話してみれば少しすっきりするかもしれません。最も、私のことに関して言いにくいことならば、話さなくてもいいですよ」
何と絶妙な言い回し。これでは、話さなかった場合総支配人のことで悩んでいることになる 。かくいう私も少し誰かに聞いてもらいたい気持ちもあって、それを上手に擽る台詞だった。
「総支配人のことではありません。ただ……本当にくだらないんですけど、いいんですか?」
「深刻な話よりはいいでしょう」
 「どうぞ」と目で合図されて、私は昨日のことを思い返しながら口を開いた。
「昨日、実は合コンだったんです」
「ぶっ」
 ちょうどカップに口をつけていた総支配人が軽く噴き出した。飲む前だったからよかったものの、きっと彼の唇は熱い紅茶で火傷をしただろう。私が急いでハンカチを出す前に彼は自分のポケットから綺麗にアイロンがかかったハンカチを取り出して口に当てた。
「失礼」
「大丈夫ですか」
「ええ、あなたが……合コンに行く性格ではなさそうだったので、意外です」
 噴き出すほどに?
私はどういうキャラ設定をされているのだろうかと首を傾げたけど、総支配人が「気にせず続きを」と促してくるから、とりあえずそのことは置いておく。