「欠員が出たとかで急遽頼まれたんです。フロントの三輪さんから」
 彼女は一つ下の後輩だ。私がコンシェルジュになる前にフロント係として指導していた。その子が突然一昨日泣きついてきた。
「合コンメンバーが一人どうしても埋まらないんです!先輩、フリーですよね?参加してくれませんか?この通り、お願いします!」と頭のてっ辺が地面に向かい合うくらい頼まれたら、無下に断れない。用事もなかった。だから、私でよければと参加した。
 男性メンバーは華やかな職種の人たちばかりだった。医者、弁護士、航空会社のパイロット、IT会社の社長。どこから見つけてきたんだと思われる人たちとの飲み会は、都内の夜景が見渡せるムードあるレストランで行われた。三輪さんが必死になってメンバーを集めたかった理由もわかる。やはり、妙齢にさしかかってきた私たちとしては、不規則なシフト勤務だし出会いも少ないから合コンも貴重なのだ。料理代も男性陣たちの奢りだという。おいしい料理を食べられて人助けもできたなら、これ以上のことはない。私は年下の子たちがキャッキャと可愛く楽しむ様を眺めながらワインを飲んでいた。
「美希ちゃん、彼氏は?」
「え?いませんけど」
 いたら合コンには来ないのでは?と純粋に思ったところで、訊いてきた隣のIT会社の社長が赤ら顔で目を丸くした。
「嘘でしょー。可愛いのに。何年いないの?」
「そうですねー、働き出してからはめっきり」
「え?マジでありえないんだけど!美希ちゃんって二十八歳だよね?」
「ええ、もうすぐ二十九です」
「ええー、その歳ならプロポーズの一つや二つされてるでしょー」
 え?プロポーズの一つや二つ?
 私はワイングラス片手に固まってしまった。そうなの?巷ではそんなに頻繁にプロポーズするものなの?私っておかしい?
考えているうちに、その人は違う女の子に自分の趣味の釣りの話をしていて、その話題が再度蒸し返されることもなかった。ただ、私のアイデンティティに拘る話題は宙ぶらりんにされたまま、どうにも気持ち悪く胸に残る結果となった。