「わぁ、今年も立派ですね」
 私は朝一番ロビーで感嘆の声を上げた。
 十一月下旬、クリスマスまであと一カ月あまりになると帝都プリンスホテルのロビーには大きなクリスマスツリーが設置される。見上げるほど高いそれは煌びやかな飾りが程よいバランスでつけられていて、目にも鮮やかに室内の光を反射させて輝く。
「本当ですね」
 隣で並んで見上げていた総支配人もどこか嬉しそうだ。夜中、お客様が寝静まった時に運搬作業が始まり、明け方ようやくツリーが完成した。
「私、このツリーを毎年見るのが楽しみなんです」
 私は自分の背丈の何倍もの高さのツリーを見上げた。
「子供の頃、誕生日に祖父母がここのレストランでお祝いしてくれたんですけど、ツリーがすごく綺麗で。毎年誕生日とともにこのツリーを見上げるのが楽しみでした」
 きらきらと輝くホテルに大きなツリー。優しい笑顔の祖父母とホテルマンたち。夢の世界の舞踏会に来たような感覚になった。
 それがここで働く夢にも繋がって、今毎年見ることができる。ただ、ホテルは華やかなイメージが強い分、裏方の作業は地味で、かつ力仕事が多い。両面を知っていると、季節ごとの飾りの変化にも、スタッフの尊さを感じる。
「総支配人、作業ずっと見てたんですか?」
「ずっとではありません。朝方一度シャワーを浴びに家に戻りましたし」
 それってほぼ徹夜だったんじゃないの?
 朝早めに出社した私よりもまた先に部屋にいた。そうしたら、「ツリーできてますよ」とロビーに誘われたのだ。私もツリーが目当てで早めに来たから、一緒に並んで見ているのだけれど。