新しい総支配人の名前はルイ・ウォーカー。
アメリカの本社から来た日本事業の責任者でこのホテルの総支配人だ。太一の予想は当たった。だが、日本人顔負けレベルに日本語は達者だ。
赴任後初の朝礼で、この人は高らかに宣言したのだ。
「我が社としても、ゴミを買ったわけではありません。このホテルに不釣り合いな人材は辞めていただくこともありますので、ご理解ください」
 朝の爽やかな空気の中、不釣り合いなのはどちらかと思いたくなるほど、爆弾発言をかましたのだ。動揺する社員たち。だけど、総支配人が周囲に視線を向けると、水を打ったように静かになった。睨まれたら一気に無職だ。そんな中で福田さんに呼び出された私。そして、総支配人付の秘書になる打診をされたのがさっきだ。
 なんで、私が?
 ただ、それだけが頭の中を支配する。だって、私より適任の人物がいるはず。総務部や秘書課もある。それが、なぜコンシェルジュの私なのだと首を傾げたくなる。
 副総支配人室の隣が総支配人室だ。数メートルだけ廊下を移動して総支配人に続いて部屋に入ると、副支配人室より二倍はある広さ。広いデスクに、豪奢な三人掛けソファーが二つと立派な木製のローテーブル。備えつけの家具を含めて、うちの客室のスイート並だ。全て前の経営陣のセンスだ。これで経営難でホテルお取り潰しまでいきかけたのだから、かなり老舗の看板に胡坐を掻いていたことが一目でわかる。
「総支配人」
「何でしょうか、灰原さん」
「秘書の件は考え直していただけませんか?」
 福田さんとの会話を聞かれていたのだ。ここで懐を探る必要もないと、単刀直入に進言した。総支配人は自分のデスクに座ると、長い指を組んだ。
「なぜです?給与も支配人付きの秘書のほうがいいですし、シフト形態でもなくなる。プライベートへの時間も割けると思いますが」
「私はコンシェルジュという職に誇りを持っています。現場を離れてデスクワークは性に合いません」
「デスクワークですか」
 ふっと鼻で笑われた。しまった、秘書は社長などの役員とともに行動する。ある種体力勝負の職業でもあるから、適切な表現ではなかったかもしれない。でも、そこが論点ではないしと、スルーしてもう一度口を開いた。