そこで目が覚めた。自分の借りているアパートの白い天井が視界に広がる。
「おばあちゃん」
 思わず呟いたけど、もちろん返事は聞こえない。天国から私のことが気がかりで夢に出てきたのだろうかと思うほどのタイミングだ。
 母と対面して、一日経った。結果は決別という形になったけれど、元々交流があったわけではないから何か変化することもない。ただ、少しだけ胸に小さな穴がぽっかり空いたような感じがする。それは、幼少期からの親の呪縛がなくなったのと、やはりどこかで愛されたかった自分の気持ちとが相まった不思議な感覚だ。
私はベッドから起き上がると壁かけ時計を見上げる。朝の六時半。そろそろ起きて出勤しなければいけない。
朝食はヨーグルトと簡単に作ったサラダと目玉焼きにした。昨日はたらふく総支配人と焼肉を食べたから、胃がまだ重い。それと同時に、頬が熱くなる。昨日、総支配人に抱きしめられたとか、私のために母に怒ってくれたとか、あれからずっと手を繋いで歩いたこととか、すべてが走馬灯のように脳内を巡って、鼓動を早くする。
これは、何だ……というほど、私も恋愛音痴ではない。ちゃんと自分の気持ちを受け止めている。一晩かけて考えては、細身なのに意外と腕が逞しかったとかを思い出して悶えて、結局寝付けたのは朝方に近い時間だ。だから、ろくに睡眠をとっていない。あれだけ考えてもまだ彼を思うと舞い上がるなんて、恋愛とは恐ろしい。
家にいてもあれこれ思い出すだけだから、朝食をとってさっさと身支度を整えると家を出た。ホテルについて、総支配人室に向かう。
普通に、普通に。
いきなり、恥じらいだすなんておかしすぎる。相手に気取られないように、普通に。あれ?でも、総支配人は私のこと好きなんだよね?じゃあ、私たち両想い?気持ちがバレても問題ないってことじゃないのか。いや、だめだ。勤務中にデレデレするのは不謹慎だ。やっぱり、隠そう。
自分の頭の中を整理しながら歩いていると、あっという間に総支配人室の前に着いた。
きっと、いつものごとくもう出社しているだろう。ドキドキと心臓がうるさい。ノックをするために腕を上げると、手が震えていた。