北の地に雪虫が飛ぶ季節になった。初めて見るその儚い姿に私の心は重なって、雪虫と一緒に、どこかへふわりと行きたくなる。
私の気持ちはまだ泡立ったままだ。
 
 達人との生活は、一見平和なものだった。一週間に一二度仕事で遅くなる以外は、達人はまっすぐに家に帰って来たし、週末はきまって二人で過ごした。
 先週は二人で小樽に旅行にも行った。二人で鮨を食べ、ガラス細工の店に入り、夜は達人がとってくれたホテルに泊まった。そうしていると、私たちは仲のよい夫婦に見えるだろう。夫の心に妻以外の女がいるなんて、誰も思わないだろう。その疑惑から、妻が夫のことを注意深く見つめているなんて、誰も気がつかないだろう。妻の心に、どうしようもない嫉妬がうごめいていることなんて、誰もきづかないだろう。
 そして、店に並ぶガラス細工を眺めながら、妻の心は夫でない他の男を想っているなんて、誰が思うだろうか。

 由美子がいきなり来たのは、そんな、もう全てを穏やかな日常に埋もれさせてしまおうとした時のことだった。

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不倫  夫婦  大人の恋  浮気  女友だち  嫉妬  年下の恋人  親友