ボクは初恋をまだ、知らない。
♢ボクの恋愛対象?
ちなみに男に間違えられやすかったボクは、入学してから制服を着ていない時に5.6回ほど女の子に名前を聞かれた。

その度に、
「ボクこれでも女です。ごめんなさい」

そんな定型文を何度も言う羽目になり、
隣でそれを見た薫は爆笑していた…。

薫の笑顔を見れるのはいいけれど…


"お前は、男にでもなるのか?"

ある人の言葉を思い出してしまう事が増えた。



ーーーーーーーーーー

学校生活はそれなりに楽しい。
放課後は4人でダンスも出来るし、
家に帰ったら宿題や勉強も頑張る。

何気に忙しい中で、
休日はたっぷりと好きな事に没頭した。

「……やった。出来た!!」

ミシンを貰った誕生日から、約2ヶ月。

あの雑誌に載っていたようなスカートを
ボクはついに、完成させることが出来た。

「……大事にするからね、おばあちゃん。」

材料の布地を見つけるまで、本当に苦労した。

色、柄、素材…。

どこへ行っても思うような布地が見つからなくて色んな店を探し回っていたが、それは意外とそばにあった。

ボクのおばあちゃんちは割と近くにあって、
誕生日の後しばらくしてからおばあちゃんに会いに行った。

数年前に亡くなったおじいちゃんの書斎がそのままになっていたのだが、窓のカーテンを見てはっとしたのだ。

((きたぁぁ!!これだぁぁ!!))

そういえば、おじいちゃんとボクの好きな色とか柄の趣味はよく似ていたのを思い出した。

そのカーテンは、
幾何学模様とチェックが絶妙なバランスで織り成されていて、まさに個性的なデザインそのものだった。

色も、黒がベースで深みのある朱色との配色でなかなか良い。

ボクはおばあちゃんに、懇願しまくって、
やっとの思いで手に入れた貴重なものなのだ。

まさか孫が、カーテンをスカートにしてしまうなんて考えもしなかっただろう。

欲しい理由を話した時、
「ぎょぇえー!」っと両手を上げて驚いた時は、リアクション古いなと思いつつも、なんだか可愛かった。

「…縫製もしっかり出来てるし。
履いてみよう!」

白いカットソーに黒のジャケットを着て、
初めて作った自分の作品を履いてみる…。

「……おお、思ったよりいい感じ。」

鏡の前でゆっくり回りながらチェックしていく。
ジグザグに層を重ねた布地は、ボクの細い腰にもフィットしている。

ボクは初作品記念として、
「ミルフィーユスカート」と名付けた。

名前に似つかず格好いいイメージのスカートだが、そのギャップもまたいいと勝手に思っている。

これに黒のショートブーツを履こう!とか色々シミュレーションしていると、母さんがドアを少し開けて、ひょっこり覗いている姿が鏡に映っていた。

「わぁっ!?なにしてんの?!」

「あ、驚かそうと思って!」

何度も掃除機をかけに部屋に入っていた為、
完成間近だった事に気づいていたんだろう。

そのまま部屋に入ってきて、
ボクのそばに座った。

「こっち向いて、よく見せてよ。」

エプロンにご飯の匂いをくっつけて、
母さんは優しい顔で笑った。

「……どうかな?」

スカートが見えやすいように軽く手を上げると、水仕事で少し荒れた手でボクのスカートに触れた。

「……えっえっ!?凄いぢゃない!
ホントに初めて?ちゃんとポケットまでついてるし縫製もしっかりしてる…さすが最新ミシンね。」

「初めてだからとことん拘ってみた。
これね、取り外しも出来るんだよ!」

そう言ってボクは、ミルフィーユ部分を外して見せた。

「……千影、専門学校行ってみる?」

「え…っ?」

ボクの完成度の高いその作品を見た母さんが、そんな事を提案してくれた。

「進路。早めに考えておくのも有りよ?」

「で、でも、専門学校って大学よりもお金かかるんぢゃ…」

ボクの心配をよそに、母さんは話を続けた。

「母さんを誰だと思ってるの?
バリバリのキャリアウーマンよ!
父さんだって単身赴任で頑張ってるし、一応ずっとあなたの将来の為の貯金もあるのよ?」

「そう…だったんだ。」

「もしこの先千影が、本気で服飾関係に進もうって思うなら、母さんは応援するから。」

「…そんな事言われたら、もう。やるっきゃないぢゃんか…。」

そう言うと母さんは笑った。

「…父さんは堅物だし、偏見の強い人だから昔はよく千影に"女は女らしく"って言ってたよね。」

"お前は、男にでもなるのか?"

その言葉を吐いたのも、父さんだった。

昔から、男の子みたいな格好が好きだったボクに何度もそんな事を言い続けていた。

でも、初めて作ったのは女性の象徴のようなスカート。

「いつか、父さんにも
千影の作品を見せてあげてね。」

「うん…これからもっともっと、
色んな服を作っていくよ。」

ボクは母さんと、約束を交わした。

小指はとても冷たかったけれど、
与えられた愛情はとてもあったかい…。

いつか父さんにも、
ボクを理解してもらえますように…。
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