星空電車、恋電車
高2の春

恋のはじまり



グランドにホイッスルの音が響いている。

樹先輩をはじめとする短距離グループ5人はゆっくりとトラックを流していた。
時に笑顔を浮かべながら和やかな雰囲気だ。

うちの部活では練習用のウエアは個人の自由になっていて、樹先輩は落ち着いた深い赤色のTシャツを着ていることが多い。反対にいつも樹先輩の隣にいる京平先輩は目にもまぶしい黄色の蛍光色のTシャツを着ているから、遠くにいる樹先輩を探すときにはどうしても京平先輩が目印になる。

でも、私はどんなに離れたところからでも例え京平先輩がいなくても樹先輩を見つける自信がある。

だって、入部してからずっと樹先輩を見てきたから。

そして、今は樹先輩の彼女になって3か月。日常で以前よりも近い場所で樹先輩を見ることが許されているから彼氏を見誤るはずがないのだ。

インターハイまであと1ヶ月。
樹先輩をはじめとする短距離グループはどうやら全員うまく調整できているらしい。

順当に県予選を勝ち抜きこの夏のインターハイの本大会に出場することが決まっている。
私も頑張った甲斐がありハードル競技で樹先輩と共にインターハイに挑戦できることになっていた。
高3の彼はこの大会の結果によってはこれが最後の大会になり引退してしまう。
つまり、これが私たちが高校で一緒に出場できる最後の全国大会になるというわけなのだ。


ここ数日は晴天が続いていて、午後になってもじりじりとした焼けつくような日差しが辛い。
日焼け止めなんて役にたっているのかどうかもわからない。
汗でどんどん流れていくし、私はそもそも肌に何かを塗られる感触が苦手だ。
肌の上に張り付いているモノが自分の中の動物的な五感の感度を下げてしまうような気がするから。



「おい、水口」
顧問の声にハッとする。

「ボーっとしてんな!もう一本いけ」

「はい!」

樹先輩に見とれていて集中を切らした私に顧問の容赦ない檄が飛んだ。

私も樹先輩と一緒に自信をもってインターハイに出場したい。
そのためにはもっと練習してもっと早く跳べるようにならなければ。

ーーー私はスタート地点から13メートル先にあるハードルを睨みつけた。


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