星空電車、恋電車
恋電車

春は遠く

***

久しぶりの地元だというのに早くも駅に着いた途端、この土地に来たことを後悔した。

自分の立つ反対側のホームにあの時のあの彼女が立っているのを見つけてしまったのだ。

あれから2年半。
この遠目から見てもあの子はあの時よりもさらに可愛いらしくなっていた。


どうやら一人で電車を待っているようだけど、同じホームにいる男子大学生や高校生たちの何人かがチラチラと彼女を気にする視線を送っているのがこちらからよくわかる。

ふわふわとしたセミロングの髪に春色のブラウスとオフホワイトのパンツにロングカーディガン。
彼女の周りには花が咲いているように明るく華やかに見える。

少女漫画のヒロインみたいに清楚、可憐、儚げで守ってあげたいってイメージ。
・・・あれから髪は伸びたものの相変わらず細身で凹凸の乏しい体型の私とは真逆じゃないの。

彼女を見つけてあの頃に感じた私の嫉妬と悲しみ、寂しさ、やるせない気持ちが次々と胸に甦り締め付けられるように苦しくなってくる。

はああ。

帰ってきた途端にこれだもん。
彼女から視線をそらしても当然のことながら胸の痛みは治まらない。

今の私と彼女は何の関係もないというのに。

大体、今の大学生活で樹先輩に再会しなければ彼女を見てもここまで胸が痛くなることはなかったはずだ。

もう過去のことだとわかっているのに。
ああっ、もう無性に腹が立ってきた。

幸いなことに私の待つ電車がホームに滑り込んでくるのが見えて私は考えることを止めた。

考えてもわからないし、考えても仕方ない。

電車に乗り込みあの彼女がいるこの場を離れることができたのだけど、胸の奥に感じたイヤな気持ちはすぐにはなくならない。

今さら彼女と自分を比較するのは意味がないことだとわかっているけど。でもこの気持ちはどうしようもない・・・。

彼女は私の一つ年下だから今受験生。
彼女が樹先輩を追いかけて自分の近くの大学に来たらどうしよう。
せっかく離れたのに私のテリトリーに入ってきて欲しくない。

胸の奥に汚い泥のようなものが溜まっていくような嫌な気分に吐き気を催しそうだ。


ーーーだから来たくなかったのにな。こんなこと考えることもなかったはずなのに。

大きなため息を飲み込んで今回のお泊りをお願いしている叔父の家へと足早に向かった。



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