星空電車、恋電車

流星に願いを

「俺、千夏に会う前に…」

樹先輩はもう星を映していない天井を見上げた。

「京平のとこに寄ってきたよ」

その名前に私はごくんと息を呑んだ。

「一発殴ってーーーあいつに謝ってきた。俺たちが直接やり取りしなかったせいであいつに迷惑をかけた。千夏に惹かれたアイツの気持ちもわかるしね。けじめをつけないとお互い千夏の前に立てないって思った」

「殴ったんですか?」

「そう。そうでもしないと俺も京平も前に進めないから」

京平先輩が私に惹かれたかどうかはともかく男の友情ってモノは私にはどうにも理解できない。


「千夏。俺の話を聞いてくれる?」

目の前に立っていたのは昔とは違う精悍な顔をした大人の男性だった。




私たちはプラネタリウムを出てホテルの屋上にある展望庭園に移動することにした。

ドームを出ても広間に井本さんはおらず、彼は廊下で他のスタッフと打ち合わせをしていた。
井本さんは私たちの姿に気が付くとすぐにこちらに駆け寄って来た。

「楽しめたみたいだね」
いたずらっぽく笑いながら樹先輩の背中をぱんぱんと叩く井本さんに樹先輩は苦笑して「おかげさまで」と答える。

私もきちんとお礼が言いたかったけれど、先ほどのスタッフは話の途中だったのだろうこちらを見ているし、井本さんのスマホが鳴り出したこともあって忙しそうなので簡単にお礼を言うだけにとどめておいた。

上映を観た後の私たちの姿は井本さんの目にどう映ったのだろう。井本さんが嬉しそうに「またおいで」と笑顔で手を振ってくれて、その顔が本当に嬉しそうだったから私も素直にハイと頷いた。
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