星空電車、恋電車

別れまでのカウントダウン



「千夏。ちょっとーー」

帰宅して私が夕食を食べ終わるのを待っていたように、父がリビングのソファーから手招きをした。

母は無言で食器を片付けている手を止めた。
母の態度と父親の真顔に何かあったんだなと子供の私でもピンときた。

このところ両親の様子がおかしいことに気が付いていた。黙ってダイニングチェアーから立ち上がって父親の座るソファーの斜め横の場所に座って父の顔を見る。

父親に視線を向けて話を促すようにすると、
「お父さん、神戸に転勤になってしまうかもしれない。いや、かもじゃなくて転勤になるんだ」

え?
父親の言葉が信じられなくて母を振り返った。

母は申し訳なさそうに小さく頷いた。
その表情に本当のことなんだとわかる。

「でも、もう転勤がないからってここに家を建てたんじゃないの?」
私が小学生になる少し前までは何度か転勤で引っ越しをしていたわが家。父の生まれ育ったこの地に落ち着くことになったと聞いていたのに。

「そのつもりだったんだけどーー、今の時代いろいろあってな」
父は私の様子を窺いながら母に視線を向けた。

「千夏。お父さんの転勤ね、いいことなのよ。お父さん、神戸で新しい会社の支社長になるんですって」
母はダイニングテーブルの向こうから私に話しはじめた。

父が会社を辞めて父の古くからの友人である藤崎さんが興した会社に入ったのは昨年のこと。でもその藤崎さんの会社はここから車で30分ほどのところにあって、前の会社よりも近いほどだったのに。

神戸ーーー
ここからは新幹線でも数時間かかる距離。そこに引っ越し?
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