星空電車、恋電車


「お待たせしましたっ」

練習後、急いで制服に着替えて樹先輩の待つ3年生の自転車置場に向かう。
もちろんだけど、女子のたしなみである汗拭きシートで念入りに汗を拭って、乱れた髪を整えてから。

「走らなくてよかったのに。そんなに待ってないよ」
白いワイシャツに制服ズボンに着替えた爽やかイケメンの樹先輩が笑顔で迎えてくれる。

「いや、待ってたぞ、5分は待った」

そんな意地悪を言うのはいつも樹先輩の隣にいる山根京平先輩。
樹先輩は「待ってないって」と苦笑してるけど、京平先輩の軽口にももう慣れっこだ。

京平先輩は黙っていればモテると思う。
そう、黙っていれば・・・だ。
見た目はそう悪くない。私の好みじゃないってだけで、後輩たちには京平ファンがいるくらいだから。

樹先輩と京平先輩は中学校の頃からの友人らしくとても仲が良くていつも一緒にいる。一応聞いたところ、二人ともに恋愛感情はないそうで安心した。

京平先輩はいつも樹先輩と一緒に私が着替えて出てくるのを待っていてくれて3人で校門まで自転車を押して歩いていく。

「水口、”俺の樹”を襲うなよ」

校門まで来ると京平先輩がニヤニヤと私と樹先輩を交互に見ながらからかってくるのももはや恒例。

「いえ、京平先輩のじゃなくて”私の樹先輩”ですからね」

しっかり言い返すと、
「水口がそう思ってるだけだったりしてなー。じゃあな、お疲れさん」

ニヤニヤ顔で手を振って自転車にまたがると走り去る。
もう、また言い逃げだ。

悔しくて地団駄を踏みながら京平先輩の背中を見送る私の眉間にしわが寄ってしまうけれど、わかってる。京平先輩はいい人だ。

だって決して私たちが2人で帰ることを邪魔したりしない。下校時間イコール樹先輩と私のデートだって知っているから。
京平先輩が樹先輩と私の3人で一緒にいるのは校門まで。
その先は必ず二人きりにしてくれる。
< 2 / 170 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop