星空電車、恋電車
「でも、家はここにあるんだから私は引越ししなくてもいいんでしょ?」

父には悪いけれど、父が単身赴任してくれればいい。
そうじゃないと、それじゃないと・・・

「でもね。ーーーお父さん、今よりずっと責任がある立場になるの。藤崎さんの会社の新しく興した支社の支社長さんなんだからこれからはお母さんもお父さんの仕事の協力しなくちゃいけなくて。それに・・・」
母は目を細めて家の中を見まわして寂しそうに声を出す。

「この町にはもう戻って来られないから思いきってこの家も売ろうと思うのよね」

家を売る?

「それって・・・どういうこと」

「ごめんな、千夏。お父さん、ここにはもう戻って来られない。神戸に作る支社を背負うんだ。藤崎にも一緒に働いてくれる社員にも責任があるし中途半端なことはできない。ただ千夏は高校をここで卒業したいよな。だから、叔父さんのところに下宿できないか聞いてみるから」

父親の申し訳なさそうな声にこれが現実の話だと分かる。

「卒業までこの家に居られないの?」
悲鳴に近い声が出てしまう。

「千夏に一人暮らしはさせられない。千夏の卒業まではあと1年半もあるし、お母さんも神戸とここを行き来するのは大変だろうしそれは難しい」

「千夏の高校の授業料だけじゃなくお兄ちゃんも大学卒業まであと2年仕送りしないといけないからお金の問題もあるの。本当は子どもにこんなこと言いたくないんだけど、その後、お兄ちゃんは大学院にもいくって言ってるし千夏だってこの先大学進学もあるでしょ。神戸で暮らすマンション代もあるし、お金はムダに使えないのよ」

両親は揃って申し訳なさそうな顔をしている。
それでも、私も納得できない。

この家から今の高校に通いたい。神戸には行きたくないと思ってしまう。

「神戸にはいつ行くの?」
「お父さんはあと2ヶ月。お母さんは千夏のインターハイが終わってからここの家を売りに出すつもりだから・・・ここが売れたらになるわ。」


私の日常生活の崩壊は突然やって来たのだった。

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