星空電車、恋電車

はじまりの終わり


それから数日後。
足の痛みは軽くなり松葉杖も使わなくなっていたけれど、テーピングは外せない。
ドクターから長時間の歩行と自転車に乗ることを禁止されていた。
このまま競技を続けられるかどうかは経過次第というはっきりしない結果に落ち込み、不安で涙を流す夜を重ねていた。

その間、樹先輩からはメッセージも電話ももらっていたけれど、自分の不甲斐ない結果と大会前の桜花さんへの態度で私はすっかり拗ねていた。
樹先輩は決勝レースに進出したものの惜しくも入賞を逃していた。その結果も蘭のメールで知った。

会いたいけど、会いたくない。
話したいけど、話したくない。



整形外科の定期受診の日、いつものように母の車で向かっていた。

それは何となく、そう、何か予感があったわけじゃない。何となく左を見ただけ。
赤信号で止まった車の窓から見た目の前の光景に息をのむ。
私の背すじに今まで経験したことがないような感覚が走る。首の下からサーっと冷たい何かが腰の下まで流れるように走り、身体が一気に冷たくなった。

あれはどう見ても樹先輩と桜花さん。

二人がしっかりと手を繋いで通りの向こう側の歩道を歩いていた。
桜花さんは楽しそうにはしゃいだ様子で隣の樹先輩に話しかけ、樹先輩も笑って応えている。

彼女は入院していると聞いていた。でもそこを歩く彼女はそうとは思えない顔色の良さと元気いっぱいの様子で。

まさか、あれは嘘?
それとも本当にたいしたことない病気で入院していただけでもう全快した?

病気だなんて、入院したなんて言って私から樹先輩の放課後を全て奪っていったのに。
私よりずっと血色が良くて私よりずっと幸せそうで私よりずっと…。

私は唇を噛みしめた。

幸せそうな高校生カップル
まさにそんな感じ。

桜花さんの可愛らしいイメージそのもののふわふわとした花柄スカートと樹先輩の引き締まった身体に黒いスキニーパンツの組み合わせは雑誌から飛び出してきたかのようなお似合いの姿だった。

お腹の底から身体が冷え、鼻の奥につんとした痛みが走り目の前がにじみ出した。

なんてお似合いのカップル。

やっぱりそうなんだろう。
あの日、樹先輩が桜花さんを優先させた時にはもう私の負けは決まっていたんだ。ううん、元から負けは決まっていたんだ。二人はきっと結ばれる運命だったに違いない。

ーーーもう無理。

私の心は悲鳴を上げた。
周りに誰もいなければ絶叫していただろう。

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