星空電車、恋電車
その夜、両親に一緒に神戸に行くことを告げた。

その日の診察の結果も後押ししていた。
今後、しばらくリハビリテーションが必要。
そして、競技に戻るためには更に長期間のリハビリテーションが必要と診断されたことで「ここを離れたいの。お父さんお母さんとすぐに神戸に行きたい」と言うと両親もすぐに動き出してくれた。

故障したことでそのまま引きこもりになるのではないかと心配していた両親は、それまで神戸に行きたくないと言っていた私の気持ちが変わったことを特に訝しむ様子はなく反対にホッとしたようだった。
すぐにでもこの地を離れたいという理由が足の故障のためだと思ったのだろう。

「神戸でゆっくりリハビリするといいさ。良い病院を探そう」
父はあれからずっとふさぎ込んでいる私のことを心配していて私が一緒に行くといったことで明らかにほっとしていた。

それからすぐに父親は自宅を離れ神戸に発って行った。
母親の方は自宅の売却を急いだようで引越しの荷物をまとめながら度々不動産会社とやり取りの電話をしている。売却まで済む予定だった自宅だけど、売却が決まる前に引っ越しをすることになった。

電光石火の母の働きかけと引っ越し業者の都合で引っ越しは10日後に決まった。
あと10日間を何とかやり過ごして、私は母と共にこの街を出て父の待つ神戸に引っ越しをするのだ。

問題は樹先輩との関わり方だった。
ただインハイ後に部活を引退し学年も違う樹先輩と顔を合わせないようにするのは結構簡単なことだったけれど、携帯電話という文明ツールの呪縛がある。

いろいろ考えて『故障して心身が不安定になっています。受験生の先輩に迷惑をかけたくないから、しばらくほっといて下さい』
と送るとすぐに返信がきた。

『不安定になっているならなおさら俺を頼って欲しい』

私はこんな返事など見たくはなかった。
頼る?頼るってどんな風に?
桜花さんみたいに毎日顔を見せて慰めてと言ったら彼はどうするのだろうか。
私の顔を見に来た帰りに桜花さんの顔を見に行くのだろうか。受験生なのに?
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