星空電車、恋電車
それから彼を避け続けこうして無事に引越しの日を迎えることができた。あのインターハイから3週間が経過していた。

もしかしたら幼なじみの二人の恋を邪魔してたのが私なのかも。
そう思えば納得がいく。

元々繋がっていた二人の間に入り込んだ、もしくは私が登場したから二人は自分たちの本当の気持ちに気が付いたとか。

どっちにしても、今の私は二人にとって邪魔者でしかない。
不要な登場人物は去った方がいい。それが自分の為でもあるから。

到着した藍色の電車のドアが開き、乗り込もうとしたその時男性の声で呼ばれた気がした。

いま誰か「水口」と呼んだ?

電車に乗り込んで振り返ると、ホームにちょっと驚いた顔で私を見る制服姿の京平先輩がいる。
自分が電車から降りようとして反対に乗り込む私の姿を見つけたのだろう。

目の前でドアが閉まり、驚いたような顔の京平先輩に少しだけ口元に笑みを浮かべ小さく手を振った。こんな時に京平先輩。

平日の昼間、学校に行っているはずのこの時間に私服で電車に乗り込んだ私のことを京平先輩はどう思っただろう。

いつも私と樹先輩を挟んで取り合うようなやり取りをしていた京平先輩に最後に出会うとは。
これも何かの巡り合わせなのかも。

これから京平先輩はあの子と樹先輩を取り合うのか、そんなバカな考えが浮かんで自分に呆れる。
座席に座り一息ついてスマホを開いてみると、京平先輩からラインが入っていた。

『平日昼間に私服でどこに行くんだ?』
『先輩こそ』

連絡先は知っていても普段私と京平先輩が二人だけでメッセージをやりとりすることはほとんどない。
だから、京平先輩は私とあんな時間に出会ったことがよほと不思議だったのだろう。

『俺は制服だっただろ。推薦が決まった大学の用事があって午前公欠だよ。水口はどうした?
樹が最近連絡とれないって心配してたぞ。受験生に余分な心配かけてんじゃねぇ』

『樹先輩も推薦決まっているんでしょ。受験生だけど受験生じゃないようなものでしょうが』

『おい、まさか知らなかったのか?樹、推薦止めて受験するって言ってたぞ』

推薦止めた?
知らなかった。
そうなんだ。他を受験するんだ。
そんなことなど全く知らなかったし聞いてない。

それまで彼女だと思っていた自分が教えてもらっていなかったことに衝撃を受けた。
当然だけど今の彼女、・・・桜花さんはもちろん知っているんだろうな。

思わず、樹先輩と彼女が手を繋いで歩く姿を思い出してしまう。
私の心はまた深い闇に包まれていく。

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