星空電車、恋電車
どんなタイプが好きかと聞かれたら、ただただ誠実な人がいい。誠実そうな人じゃなくて、誠実な人。顔でも外見でもない。むしろ顔の良さはいらない。私のことだけを大切にしてくれる人がいい。

樹先輩を思い出してチクッと胸が痛んだ。
2年前に私の中に生まれたどす黒い感情の塊は消えてなくなったわけじゃない。小さくなっていたけれど、まだ根深く棲みついていた。

きっと新しい恋をしなければ、なくならない。
いや、新しい恋をしたってこの塊は私の心を巣食って常に不安にさせることだろう。

自然に消えてなくなるような癒してくれる相手に出会うまで私と共存していくのだと思う。

「恵美さんは山下さんみたいなタイプってどうなんですか?」

恵美さんは山下さんと知り合いだと思う。それもただの同級生って感じじゃなくて。
恵美さんと山下さんの目でのやり取りによくわからないけど何かがあったような気がしたから、
”山下さん”
とどうではなく
”山下さんみたいなタイプ”
はどうなのかと聞いてみたのだ。

「んー、アイドル系がニコニコしてるとなんか胡散臭いって思っちゃう。その笑顔の裏で何考えてんのかなとか。女の子、ひっかけるのなんて簡単だと思ってるんだろうなとか。あ、別に山下を悪く言ってるわけじゃないし、あいつがどうってことじゃないからね」
慌てて笑顔になったけど、一瞬、なぜかちょっと恵美さんの表情に影が落ちた気がした。

「そんなことより、そのイベントに行くつもりなら夜だし気を付けてね。帰りに送ってくれる安全なメンバーがいるのなら甘えた方がいいよ。山下だって私の知り合いってわかった上で危険な奴は紹介してこないはずだからね」

恵美さんの心配そうな表情に私は深く何度も頷いた。
知らない土地でこんなに親切にしてもらえるなんて私は本当に隣人に恵まれた。


『星空観測会』行ってみようかな。

見ているだけで心の傷が疼きだしてしまう柴田さんは観測会に来ないって言ってたし。


このサークルに正式に入るつもりはない。でも、星空は見てみたい。
つまらなかったら早々に帰ってくればいいのだし。


私は改めてもらったビラを見つめたーーー





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