星空電車、恋電車
そう思ったのなら早々にこの手をどけて欲しい。
山下さんの手はまだ私の頭の上に乗せられたままだったのだ。

不愉快な表情を隠すことなくじっと見つめると、「悪かったよ」とやっと手をどけてくれたのだけれど、山下さんの笑顔は崩れない。

「何か、ご用ですか?私たち急いでいるんですけど」

「今日はご機嫌が悪かったのかな。何だか怖いね」
また更に笑顔を見せる。アイドル系イケメンの笑顔なんて私には通じないのに。
しらっとした顔で山下さんを見つめるとさすがに爽やか笑顔も苦笑いに変わった。

「俺、千夏ちゃんに嫌われること何かしたかな?」
「いえ。ただちょっと馴れ馴れしいとは思いますけど、まあ別に」
「あ、ごめん、ごめん。斎藤さんの知り合いだと思うと親しみ感じちゃってさ。悪かったよ」

やっぱり恵美さんと山下さんの間にはただの同級生ではない何かあるのかもしれない。
それを今突っ込む時間がないのは残念だ。

「で、私に何か?」
「そう、千夏ちゃんを探してたんだ。斎藤さんに聞いても教えてくれないから困ってた。でも、今話をする時間がないんだよね?」

こくりと頷くと、
「連絡先教えて」
とごく自然な感じでスマホを差し出された。

え。
「イヤです」
あり得ないでしょ。
即拒否する。
どうして山下さんと連絡先を交換しないといけないのか、意味がわからない。

「えー…」
隣でユキの小さな声が聞こえてきた。
えーの続きはもったいないで間違いないだろう。
ユキは大のアイドル好きだから。

ちらりとユキに”余分なこと言うな”と視線で制しておいて
「何か用事があれば、恵美さんに伝えてもらっていいですか?今日は本当に時間がないですし」
と表面だけの笑顔で伝えた。

「え、斎藤さんにアレ言ってもいいの?」
山下さんの顔に何かが浮かんだ。目だ、目が面白がっている。

何だろう。
嫌な予感がする。

「千夏ちゃん。あの星空観測会で誰と鬼ごっこしてたの?」

”観測会の鬼ごっこ”
私の顔色が変わる。この人、アレ見てたんだろうか。

「な、何の話ですか?」

「俺が見てたことをここで言ってもいい?」
山下さんが爽やかな笑顔で私を見た。

私の背すじにサーっと冷たいものが走った。
この人、あの日行った私に気が付いて・・・本当に見てたらしい。
でなければ”鬼ごっこ”などとは言わないはずだし。

どうしよう。
見られた。
樹先輩から逃げる私の姿を。

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