星空電車、恋電車
そう、私たちは付き合っていると言ってもデートらしきものなどしたことがないカップルなのだ。
それは私たちの部活が忙しすぎることと彼が受験生であることが起因している。

「ちー」

樹先輩がピタッと足を止めた。

・・・もしかして怒らせちゃった?
びくびくしながらそっと樹先輩の様子を窺うと、頭の上に樹先輩の大きな手がポンと下りてきた。

「ごめん、冗談だよ。わかってる。時間がとれるようになったらゆっくりどっか行こうな。二人だけで。だからもうちょっとだけ我慢して」

樹先輩の口から出てきたのは怒りじゃなくて私を宥めるものだった。
こんなことを言われたら怒って拗ねた自分がとっても恥ずかしく惨めに思えてしまう。

樹先輩は私の彼だけど、とにかく人気がある。
私がいても平気で女子が寄ってくるのだ。

言葉に詰まると、
「まずは今度の土曜日に散歩しながら遠回りして帰ろう」
頭に乗せられた手が優しくポンポンととされて離れていった。

顔をあげると、いつもの穏やかな樹先輩の笑顔があって。
思わず「ハイ」っと元気よく返事してしまった。


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