触れられないけど、いいですか?
「それにしても、さくらさんがこんなに良い子で本当に良かった」

そう話すのは、翔君の正面に座る、彼のお父様だ。


「綺麗で、可愛らしくて、気が利いて、しっかりしていて。本当、翔には勿体無いくらいた」

「えっ、えぇ? やめて下さい、そんな……」

お世辞とは分かっていても動揺してしまう。私なんかより、翔君の方が素敵な人なのだから。


それに……動揺してしまう理由はもう一つ。



『正直、父はあのお見合いをするかどうか、悩んでもいたんだ。父は俺と優香を結婚させようか考えていたことがあったからね……』



私達のお見合いは、翔君のお父様の希望と言うよりは、翔君自身の希望で行われたものだった。

翔君のお父様は、今みたいによく私のことを褒めてくださるし、私は嫌われてはないと思う。

だけど、本当のところはどう思っているのだろうとは……考えてしまう。


もしかしたら本当は内心、今でも優香さんを翔君の結婚相手にしたかったんじゃないか、って。



……いや、そんなこと考えるのはよそう。そんなこと思っていなかったら失礼だし、仮にそうだったとしても、こうやって疑うこと自体、良くない。


もしそう思われていたとしても、挽回出来るように頑張る。
心の中で密かにそう誓いを立て、膝の上に置いた両手の握り拳にぎゅっと力を込めた。
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