触れられないけど、いいですか?
「まあ、いつまでも引きずる必要はねえよ」

私が珍しく潮らしくしたせいか、落ち込んでいると思われたのかもしれない。優斗が突然そんなことを言ってきた。


「今のあんたに言われても説得力ないけど」

「うっせ」

私を励まそうとしてくれているのは確かなのだろうけれど、きっと優斗は優斗で、自分自身にも言い聞かせているのだろう。朝宮さんのことを引きずる必要はない、と。

そう思うと、心が軽くなった気がした。辛いのは私だけじゃないのだと思えたから。


「失恋を癒すには、やっぱり新しい恋をするのがいいのかしら。あーあ、どこかに翔以上の男いないかな」

いや、翔ほど優しくなくていいし、かっこ良くなくてもいい。傷心な今の自分には、自分と波長が合って、一緒にいるとただただ気楽だと思える、そういう人の方が合っている気がする。


「……ん?」

「何だよ?」

「……別に」


一瞬だけでも、ドキッとしたことなんて絶対に言わない。


……でも、これだけは思う。


いつもそばにいてくれてありがとう。波長の合う優斗と一緒にいると、いつだって気持ちが穏やかになれる。


……私も誰かにそう思ってもらえるように、これからはもう少し人に優しくしよう。


End
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