『キス、しようか』


『さくらから、してきて』



……唇を、人差し指でそうっとなぞる。


あれから一週間も経つのに、唇の感触がリアルに蘇ってくる。

唇の感触だけじゃない。たった一瞬唇が触れ合っただけで、全身が熱くなったあのドキドキも同時に思い出す。


「ふぅ……」

定時過ぎの給湯室で、上司にコーヒーでも持っていこうかと準備していたけれど、こうして一人になると、どうしてもあのキスを思い出してしまう自分がいる……。


こんなの駄目。ここはオフィスなんだから、仕事に集中しなくちゃ。

そう思うのに、ついついあのキスのことを思い出してしまうのは、私にとって初めてのキスだったから……というだけではなく、相手が翔さんだからというのが大きいだろう。


親が決めた結婚相手に過ぎなかったはずの彼が……いつの間にか、私の心を占領し始めている。

彼のことが好き……とか、そういう感情なのかはまだよく分からないけれど、最近の自分が彼にやけにドキドキしているのは事実だ。


「さーくちゃん」

そんな時、背後から聞き慣れた声がして振り返る。

そこにいたのは、右手をひらひらと振りながら給湯室に入ってから、霜月さん。


「霜月さん。どうしたんですか?」

「仕事終わったから、帰る前にコーヒーでも飲もうかなって」

「総務部のフロアにも給湯室ありますよね?」

「ははっ、あるある。こっちのフロア来れば、さくちゃんに会えるかなーっと思って」

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