触れられないけど、いいですか?
「ちょうど午後三時か。どこかでお茶でもして少し休もう」

腕時計を見ながら、彼は私にそう言う。


「でもその前に、少しだけ付き合ってくれる? さくらに会わせておきたい人がいるんだ」

「会わせておきたい人?」

突然のことに、私は思わず首を傾げる。


だけどすぐに、先日のことを思い出す。

それは、翔君とオーナーが会話していた時のこと。


「もしかして……優香さんって人?」

私がそう尋ねると翔君は。


「あれ? 俺、優香のことさくらに話したっけ?」

「う、ううん。この間、翔君とオーナーの会話の中に、その名前が出ていたから」

「あ、そうなんだ。それだけなのに、よく覚えてたね?」

「う、うん……」

翔君の口から出てきた、私以外の女性の名前だったから気になって覚えていた……とは、さすがに重過ぎるだろうと思って言えなかった。
エスパーな翔君にも、この心境だけは絶対にバレたくないと強く思った。



「優香は祥久さんの娘で、年齢は俺と同い年。このホテルのブライダルの衣装室で働いていて、俺とは子供の頃からの知り合い」

「幼馴染みってこと?」

「そうだね。と言っても、最近はたまにしか会わないけど」


幼馴染み……。
ということはつまり、昔から翔君のことをよく知っている人ってことだよね……。


私より翔君のことを詳しく知る女性なんてたくさんいるだろうし、いちいち気にしたってキリがないけれど……幼馴染みというのはなんだか特別な関係な気がして、心の中が少しモヤッとする。
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