あの日……。彼女は、僕の前から姿を消した。

 一緒に生きていきたい。そう思った僕の気持ちを素直に伝えたつもりだった。

「卒業したら結婚しないか?」


 今、思えば……。彼女は笑ってはくれなかった。
ほんの一瞬、戸惑いの表情を見せ、そして哀しげに俯いたままで……。



 彼女は、キム・ユリという二十歳の韓国からの留学生。



 二年生になったばかりの五月に学食でぶつかって、彼女のサンドイッチとオレンジジュースをぶちまけた。

 それが縁で、話すようになった。

 日本語が流暢で、僕は日本人だとばかり思っていた。日本名で、木村結里と名乗っていたから。

 二人で映画を観に行った帰り道、遅くなって送って行った所は留学生専用の女子寮だった。

「私、韓国から来た留学生なの。父が在日二世で、私も日本で生まれた。だから日本名も持ってる。でも父親の仕事で韓国へ帰ったから」

「君が韓国人だろうと日本人だろうとアメリカ人だろうと、大切な友人の一人だっていう事には何の変りもないよ」

 その時の彼女の笑顔は、今でも忘れられない。


 それからも僕たちは変らなかった。
他の友人たちと出かけたり、もちろん二人でも会っていた。

 彼女の周りの誰もが、国籍なんて気にもしていなかった。