僕と彼女の時間

 結里と出会ってから一年と少しが経っていた。
彼女の留学期間は二年。僕が四年生になるのと同時に、彼女は韓国に帰る。

 それが分かっていたからこそ、伝えずにはいられなかった。

 彼女は一人娘。父親の事業を継ぐために、日本へ経済学、経営学を学びに来ていた。



 彼女に会えなくなってから一ヶ月が過ぎた。
前期の試験も終わり、もう夏休みに入ろうとしている。

 大学にも来ない。携帯も繋がらない。メールにさえ返事はない。

 結里と同じ寮に居たオーストラリアからの留学生にも聞いた。
しばらく親戚のお宅に行くからと言っていたらしい。荷物はそのままで……。

 いつも一緒に居た一番仲の良かった知香にも、何の連絡もないと言う。


 気持ちを伝えたのは間違いだったのだろうか?

 僕の勘違い?
彼女も僕を想ってくれている。そう思ったのは……。
確信は無かった。僕と彼女はプラトニックなままだったから。

 二人で出かけて急な雨に、彼女の手を取って走った。彼女に触れたのは、その一度だけ。

 彼女は僕を友人の一人として見ていただけだった。そんなお粗末な幕切れ……。



 夏休みに入り、自宅から通学していた僕は学費を出してくれている故郷の親に、ご機嫌伺いに帰る必要もなかったから、アルバイトに精を出した。
 コンビニのバイトと家庭教師のバイトで彼女を思い出す時間もないくらい働いた。

 まるで彼女を忘れるために、自分自身に鞭打つように。


 高校の数学教師志望の僕には教育実習と教員採用試験が待っている。そのための勉強にも時間を費やした。

 そしてアルバイトと勉強に明け暮れた長い夏休みも終わり、また大学に通う日々が続いた。

 教育実習の単位も取っておかなければならない。僕は迷わず懐かしい母校を選んだ。公立の進学校だったが、自由な校風に人気があった。

 僕が、在学していた頃からの先生もおられて、緊張しながらも楽しい時間を過ごした。
< 2 / 7 >

この作品をシェア

pagetop