俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
髪を乾かし始めた彼の指が、時折そっと頬を掠める。

そのたびに心拍数が上がっていく。


男性に髪を乾かしてもらった経験なんてない。

ましてや相手は今日から夫になった人だなんて。


「せっかく綺麗な髪をしているんだからきちんと手入れをしろ。もったいない」

小言を言う割に、触れる指はどこまでも優しい。

髪を乾かしてもらうのがこんなに気持ちいいなんて知らなかった。


「はい、終了」

カチッとスイッチをオフにした采斗さんがゆっくりと髪を梳く。


「……ありがとう」

振り返ってお礼を伝えると、妖艶な眼差しの彼と目が合った。


「そのまま寝室に行ってろ。俺もすぐ行く」

「寝室?」

「今日から一緒に寝るって言っただろ?」

堂々と言い切られて、返事に窮する。


「お前の気持ちが俺のものになるまで手は出さない……でも、これは絶対に譲らない」

乾かし終えた髪を掬い上げ、キスを落とす。

その仕草にもう心臓が壊れそうだ。


「イイコで待ってろよ」

ぽん、と私の頭を撫でてリビングを出ていく後ろ姿を直視できない。


「……世の中の新婚さんって、こんなものなの?」

私の質問の答えは誰からも得られそうにない。
< 108 / 221 >

この作品をシェア

pagetop