「すみません、私、采斗さんに会いに……」

椅子をひいて立ち上がった瞬間。


「詠菜!」

店のドアが大きく開き、名前を呼ばれた。


「……やっと見つけた……」

ほんの少し震えた、低い声。


カツカツと慌ただしい靴音を響かせて、近づいてくる長身の男性。

怖いくらいに整った面差しには険しい表情が浮かんでいる。


「采斗、さん?」


どうしてここに、と最後まで言えなかった。

グイッと強引に腕をひかれ、大きな胸の中に閉じ込められる。

力強い腕と耳に響く彼の早い鼓動、いつもの香りに混じる汗の匂い。


「無事で、よかった……心配した……」


背中に回された腕が震えているように感じるのは気のせい?

ずっと捜してくれていたの? 


そっと見上げた彼の額には汗が滲んでいた。

いつも完璧に着こなしているスーツもどこか乱れている。


「――もとはと言えば副社長のせいですけどね」

淡々とした如月さんの声にハッとする。


「あ、あの采斗さん、離して」

「嫌だ。離したら逃げるだろう?」

ギュッとスーツの胸に身体を強く押し当てられる。


今では慣れてしまった温もりに胸が軋む。

それでもこの状況はさすがに恥ずかしい。