俺様御曹司は期間限定妻を甘やかす~お前は誰にも譲らない~
今回社内公募されている飲料のテーマは『女性に人気の飲料』だ。

この商業施設自体が女性やファミリー層を主なターゲットにしているのが大きな理由だ。

採用された企画は商品化され、商業施設に設置される自動販売機の主力商品となる予定だ。


「うーん、今取り掛かってる案件で手一杯なのよね。詠菜みたいにほぼ毎回応募するほうが珍しいわよ。ちなみに今回の商品は商業施設限定で販売する可能性が高いらしいわ」

「限定?」

「うん、ほら、コンビニ限定販売の商品とかあるでしょ。ああいうイメージみたい」

益々興味が湧いてくる。

何気なく店内に視線を泳がせて壁掛け時計を見ると、昼休みの終了時間が迫っていた。

「あ、ねえ、そろそろ戻らなくちゃ。雛乃、銀行に寄りたいって言ってたでしょ?」

「本当、もうこんな時間。企画の話はともかく、副社長を甘く見ないようにね。誰にも執着した経験のない男性の本気は、凄まじいわよ?」


頭の片隅に追いやっていた現実が再び蘇る。

脅しにも似た念押しとともに、親友は財布を手に立ち上がった。


「本気って……まさか」

苦笑しつつ支払いを済ませ、連れ立って店の外に出る。

近くの交差点で雛乃と別れ、私は会社に一足先に戻った。


翌日も翌々日も特に大きな変化もなく、ビクビクしていた気持ちが段々薄れてきた。

私が社員だとはやはりバレていないようだ。

どうやら勘の鋭い同期の予想も今回は外れたらしい。


“興味がある”だなんてきっとただの冗談、からかわれただけだ。

そう思うと心の中が晴れやかになった。

これでなにも気にせず今までのように社内で過ごせる。
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