誇り高きZERO.
誤認逮捕発覚?!

「粟田康彦が犯人で間違いないな」
 ホワイトボードには中年の男性の写真が一枚。写真の下には『粟田康彦』の文字。矢印が引っ張られて、その先には一人の女性の写真。こちらの写真には、肩口まで伸びた栗色の髪の女性が笑顔を浮かべていた。女性の下には『被害者 篠崎愛花』の文字が綴られていた。
 すぐ隣にもう一枚の写真も貼られていた。栗色の髪が朝露に濡れてアスファルトに張り付いている。瞼は半開き、虚ろな瞳が覗いている。隣の笑顔の女性と同一人物とは思えないほど、その顔は哀しみに染まっていた。
 その遺体が発見されたのは週末明けの月曜日の早朝。ホームレスの男性が発見し、近くを散歩する老夫婦に伝え、警察に通報。
 警視庁捜査一課に捜査本部が設けられ、早一週間が過ぎようとしていた。丁度同時期に、別件で連続放火殺人が起こっており、大多数の捜査官はそちらに回っていた。
 本事件の担当にあたるのは若手捜査官四名である。
「粟田はガイシャの元交際相手です」
「確か、ガイシャの友人女性からの証言では、粟田はガイシャとの別れを受け入れられずにストーカーまがいの行為も行っていたんだろ?」
「あぁ。それに被害者女性のつけ爪から、粟田のDNAも検出されている」
「決まりだな」
 捜査官たちの声が室内に響く。

「どう思う?」
「どう、とは?」
 マジックミラー越し、二人の男の影が揺れる。
 清水の問いかけに、神童は「なんのこと?」なんて白々しく小首を傾げてみせた。それでも、清水は静かに神童を見つめる。
 はぁ、と小さな溜息を神童は漏らす。
「そうですねぇ。このまま進めば、彼らは粟田の令状を取ってくるでしょうね。もれなく粟田は逮捕。本人は無罪を主張。ですが、証拠はよりどりみどりと揃ってます。最高裁まで行くでしょうね。でも、やっぱり判定は覆らずに粟田は刑務所。数十年後に警察誤認逮捕発覚!だなんて騒動にならないことを祈りましょう」
「祈るな」
「え、祈っちゃダメなんですか?!誤認逮捕だなんて、警察の信用ガタ落ちですよ?」
「その誤認逮捕を防げと言っている」
「えぇー。それ、僕の仕事ですか?」
「お前の仕事だから、今ここにお前がいるんだろう」
「僕、清水さんにいきなり引っ張って連れてこられただけなんですけど」
 清水の言葉に神童はわざとらしく肩を落とした。
「もう...清水さんがそう言うなら仕方ないです。お仕事してきましょう」
 んーっと背伸びをしながら目を閉じる。そしてゆっくりと瞼を開いた。
「竜ヶ崎、頼むぞ。俺は神童ではなく捜査協力者の泉智也だ」
「承知いたしました」

 さて、可愛い後輩たちにお灸をすえてやろうか。
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