誇り高きZERO.
どうして助けてくれなかったの?!

「留守電が入ってたんです。日曜日に。私、休日出勤で電話に出られなくて。留守電を聞いたのは夕方でした。
''ごめんね。今までありがとうって。"
 急いで愛花の家に向かいました。愛花とは小学生のころからの親友で、幼馴染でもありました。だから一人暮らしを始めてもお互いの家の鍵を交換してて……。
 刑事さん、第一発見者とかなったことあります?ほら、よく小説であるような演出。子供が学校から帰ったら自分の親がリビングで宙吊りになってるってやつ。子供が泣きながら110番するんですよね。
 あはは……、あたし、出来なかった。
 信じられなかったけど、留守電を聞いた時点で何となく予感はしてた。だから、愛花の家に向かってる途中にあの男を見つけた時、わざとぶつかってやった。その腕を引っ掻いてやったの。DNA鑑定って今の時代だと、ほんの少しの細胞でも出来るんでしょ?だから………。
 だから、もう既に決めてたの。110番なんてする気なかった。
 ぶら下がった愛花を降ろして、あたしのつけ爪を心の指に着けた。そして、スーツケースに心を入れて、あそこに置いた。違う、捨てたの。あたしが愛花を捨てたの。あんなとこに……。
 あの男は殺人犯です。愛花を殺しました。愛花が死んだのはあの男のせいです。でも、警察は自殺した愛花をただの自殺者としか見てくれないでしょ?その原因なんてどうでもいいんでしょ!!
 ………どうして、助けてくれなかったんですか?事件性はないって!じゃあ事件性って何?何をされたら事件性があるの?部屋に入ってこられたら?どこかに連れ込まれたら?監禁されたら?……それともレイプされたら?
 警察ってなんのためにあるの?!あたしたちを助けてくれるためじゃないの?!犯人を捕まえるためじゃなくて、犯人が生まれないために動いてよ!!愛花を助けてよ。何度も何度も助けてって言ったのに、どうして助けてくれなかったの!!捕まえて、あの男を捕まえてよ。
 男だから分かんない?女だから大袈裟だって思ってる?でも、怖かったんだよ。携帯の充電が、着信と留守電でなくなるんだよ?どこに行ってもずっと視線を感じるの。自分の写真が封筒一杯に入れられてポストに投げ込まれるの。
 これって異常だよ。こんなの普通じゃないよ。でも、事件性はないんだって。
 探偵でも雇えばよかった?民間のボディーガードとか調べればよかった?でも、それだってタダじゃないし。そんな大金ただのOLが持ってるわけないじゃん。
 ……あぁ、じゃあやっぱり運命だったんだ。愛花が死んじゃうのは。そっか……。
 ねぇ刑事さん。捕まえて。あの男を。そして、あたしを。
 愛花を見世物にしちゃった。テレビ見てね、気が付いたの。愛花の写真が画面いっぱいに映ってて。あぁ、これはあたしのせいだって。あの時はそんなこと少しも考えなかった。あの男への復讐心しかなかったの。
 でも、愛花はこんなこと望んでなかったね……。
 間違えちゃった、あたし。でも、もう戻れなかった。今さら引き返せなかったよ。だから、せめて刑事さんたちがあの男を犯人だって逮捕してくれたら、それで……。
 でも悪いことってしちゃいけないね。だって、絶対にバレちゃうから。あたしは死んだ愛花をもう一度殺したんだ。
 ねぇ刑事さん、お願い。逮捕して、あたしのこと。愛花を殺したの、あたしなの。」
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