イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
約束~郁人side~
***

「郁人、お前が常盤と婚約しろ」

祖父が亡くなって、叔父が最初に言ったのがこの言葉だった。

「……この訃報を聞いて主昭が出てくるかもしれません」
「もういい。主昭には荷が重かったんだろう。自由にさせてやるしかない」

不本意なのには違いないのだろう。
酷く憔悴していた。

「何度も言いましたが俺はもう結婚しています」
「どうせ体面上、喪中に婚約はできないだろうからそれまでに離婚しておけばいい」

お断りします。
これももう何度言ったかわからない。

それでも、叔父にも叔母にも通じない。俺は言うことを聞いて当たり前だと思っている。
主昭を自由にさせてやると言った。その自由の代償を払うのが俺だろう、と言いたかったが今は黙った。
どれだけ言っても通じないなら、自力でつかみ取るしかない。

それにしても、どうしてこうも情がないのか。
いや、亡くなる前は、慌てて病院に駆けつけてきた様子を見れば少しくらい、親子の情が見えた気がする。しかし、亡くなったその瞬間から叔父の顔は経営者のそれになった。

会社の混乱を抑えなければならないのがまず念頭にある。
大企業の経営者の性なのかもしれない。


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