イジワル御曹司と契約妻のかりそめ新婚生活
結婚へのカウントダウン
***


 大学を卒業してから六年勤めているこの会社は、日本最大手と言われる総合商社のグループ会社で、精密機器の製造・販売を主な事業としている。取引先は、一般企業から病院、学校や公的機関など様々だ。ひとつの取引で大きな額のお金が動く。そんな会社の営業はまさに花形だ。

 そんな花形部署のエースである佐々木郁人と私は、実は同じ年に入社した同期だったりする。部署が違うため向こうは私が営業部に来るまで私のことを知りもしなかっただろう。

 朝からパソコンに噛り付きデスクワークに勤しんでいると、昨日のお見合いがまるで夢だったような感覚になってくる。パソコン画面に微かに背後の人影が映り、それが誰かわかったから少しだけどきりとした。いつもなら、こんな緊張はしないのに。


「園田さん。先週頼んだ打ち合わせ用の資料だが」
「今日の昼には上がりますがよろしいですか」
「ああ」
「フォルダに入れておきます」
「頼む」


 お互いに抑揚のない声でのやり取りは、緊張からではなく私たちの平常運転だった。そのことに少し安堵する。
 彼の方は知らないが、私は別に彼にだけ素っ気なくしているわけではなく、誰に対しても、男女関係なく同じ対応だ。しかし傍目には私と佐々木郁人は仲が悪いと思われているらしい。こんな私たちが結婚するなんて知られたら大騒ぎになる。

 その時、明るくその場を和ませるような、可愛らしい声が佐々木さんにかけられた。
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